BLOG-0062 今もなお、究極のウルトラマン

 1980年代の初頭、全国の模型店ではプラモデルの人気が低迷し、業界の景気は落ち込んでいた。そんな頃、大阪府にある海洋堂に新しい風が吹き込んだ。店に出入りする客の中に、手作りの怪獣フィギュアを持ち込むファンが現れたのである。そのフィギュアには、従来の模型や玩具では見たこともないリアリティーが存在した。それは何かというと、本来は目立っていけないはずの着ぐるみのシワやファスナー等が忠実に再現されていたことだ。怪獣とは、実際は着ぐるみを身にまとった人間の演技である。そういう現実のポジティブな表現は、かえって新鮮だった。 もう一つ重要な点は、玩具としての安全優先とか、製造上の都合とかいうものに縛られていなかっことだ。そこで、海洋堂は本物志向のマニア向け商品として、ファンの作品をレジン等で複製しキットとして販売した。これが、日本における商品化されたガレージキット生産・販売の始まりと言われる。海洋堂以外にも、ゼネラルプロダクツ、ボークス、ビリケン商会といったメーカーから特撮系のガレージキットがリリースされた。ここで、模型業界に新たなジャンルが確立されたのである。

 今回紹介するのは、ガレージキット生誕30年として再販された木下隆志氏作のウルトラマンである。木下氏は、1980年代後半にキットの原型師として海洋堂へ入社。その後、ウルトラマンを中心に多くの原型を担当し、'90年代にはウルトラマン造形の第一人者となる。そのなかでも、全高36㎝の仁王立ちのウルトラマンCタイプは史上最高の完成度とも言われ、特撮関係者、特に円谷プロ内では常に好評を博しているという。㈱バンダイから発売されたウルトラの星計画(ウルトラマンCタイプ)のマスター原型となったことでも有名だ。これまで、イベント限定などで少量再生産が行われたことがあったが入手は難しかった。今回、ガレージキット生誕30年の記念として、この木下作ウルトラマンの代表作品を塗装済完成品モデルとして、初回発売時と同じ価格で待望の再生産が実現された。

 昨今は、CCP等からウルトラマンを初め、究極的な商品が発売されている。これらの、スーツの傷や継ぎ目、汚れにもこだわったモールド表現には、木下ウルトラマンと言えど、さすがに及ばない。それは、作品の時代性もある。しかし、全体としてのウルトラマンCタイプとしては今もなお“史上最高”の座を守っていると思う。

 

 画像に写っている専用台座は、付属の物にフエルトを貼ったもの。右足に台座から突き出た金属のシャフトが差しこんであるので安定する。本体の塗装に関して驚いたのは、銀色の部分が筆塗りであること。筆跡が残る部分もあるが、補修が繰り返されていくオリジナルスーツの雰囲気が出ている。

 

Toy Data

1/5スケール(約360ミリ) 

製品素材:コールドキャスト

原型制作:木下隆志(海洋堂)

発売:2012年2月上旬

販売価格:18,900円(税込)

販売:株式会社ケンエレファント

企画制作:株式会社海洋堂